近年の音楽ライブにおいて「マニピュレーター(Manipulator)」と呼ばれる、主にライブ演奏と同期する形でさまざまな電子的要素を制御し、演出をサポートする役割があります。
マニピュレーターは具体的には以下のような業務内容や特徴があります。
シーケンス(DAW)の操作・管理
バックトラックやクリックトラックの再生
DAWを用いた、演奏に合わせた音源の再生・停止や切り替え
自動演奏(シーケンス)の進行管理(各パートのタイミングや音色を正確に同期)
クリック(メトロノーム)の提供
バンドメンバー全員がタイミングを合わせるためのクリック(メトロノーム)信号を送出
演奏者それぞれのモニター(イヤーモニターなど)に適切な音量やタイミングでクリックを届ける
ライブ全体の構成を把握し、演奏を支援
ライブの進行に合わせてセットリストを管理し、曲ごとに必要なシーケンスやサウンドを呼び出す
照明や映像との同期をサポートし、演出の一体感を高める
トラブルシューティング(音飛びやシステムエラーが起きた際のリカバリー)も重要
そして、マニピュレーターにとって一番大事なのは、万が一再生中のDAWが止まってしまった場合のバックアップシステムへの切り替えです。
以下の図は、マニュピレーターシステムの一例です。マニュピレーターのシステムを組む際にどういった事を考慮してシステムを組まないといけないのかは以下の通りです。
【マニピュレーターシステムの一例】
上記のように、ライブのマニュピレートシステムを構築するとコンピューターを除いたとしても、100万以上の金額が掛かって来ます。
大きなライブ会場などのシステムとしては投資額としては妥当かもしれませんが、ライブハウスの規模でのマニュピレート業務ではかなり厳しいと思います。ライブハウスの場合、マニュピレーターに与えられるスペースは限られていることも多く、実際には舞台袖では無く、PA卓の横にシステムを構築しなければならない場合もありますので、なるべくコンパクトなシステムを求められることも多いです。
そんな中、痒いところに手が届く製品がiConnectivity から発表されました。それは「PlayAUDIO 1U」です。
「PlayAUDIO 1U」はこれ一台で2台のコンピューター間の「DAW停止時のバックアップ」が出来る優れものです。
「PlayAUDIO 1U」とPA卓からの返しを受けるモニター用の「アナログミキサー」を用意すれば最小でマニュピレートシステムを構築出来ます。
それでは、「PlayAUDIO 1U」を使用する際の設定について触れて行きましょう。今回はマニピュレートで良く使われるDAW「Digital Performer(DP)」を使用して解説して行きます。
通常、オーディオインターフェイスはコンピューターと1対1の接続になりますが、「PlayAUDIO 1U」は2台のコンピューターを接続して認識することが可能です。
2台のそれぞれの音声をコントロールするミキサーは「Auracle」という専用のソフトを使用します。
2. 用意したステムミックスが読み込まれたDAWのプロジェクト上で、「PlayAUDIO 1U」1-12chをそれぞれ指定。
2台のコンピューターと「PlayAUDIO 1U」を正しく接続したら、次にDAW側の出力を指定していきます。12chと余裕がありますので、ステレオトラックとモノラルトラックに応じてこのように出力先を設定していきます。今回のケースでは下記のようにアウトプットを設定しました。
1ch:Click (メトロノーム)
2ch:Kick
3ch:Snare
4ch:Bass(Synth Bass等)
5-6ch:Rhythm(Percussion&Loop等)
7-8ch:Guitar
9-10ch:Synth & Keyboard
11-12ch:Other(Strings & Brass 等)
設定したOutputに正しく音声が流れているか「Auracle」を使用して確認します。Headphone Outの項目でSolo機能を使うことで、Headphone Out側で確認することが出来るようになっています。
リハーサル時に一度、PA側へ送る音声を止めてDAW調整を行う場合は、上部に並んでいるOutput1-12の各トラックをMuteすることで対応可能です。上記の設定は2台のコンピューターで同じ様に設定します。
3. 2台のDAWを同時再生させる為の設定
「B」端子にUSB接続したコンピューター側がスレーブ側(同期される側)になりますが、PlayAUDIO1Uはちょっと他のマニュピレート機材とは設定が異なります。
PlayAUDIO1Uには「Jam Sync」というMIDI Time Code(MTC)の信号が切れたとしても自走する機能がありません。その為、MIDI Time Code(MTC)で両方のPCを同期させてしまうと、「A」端子に接続されたメインPCにもし障害が起きて止まってしまった場合、同期再生している「B」端子に接続されたスレーブ側のDAWへのMIDI TIme Code(MTC)の信号が止まってしまい、DAWも一緒に止まってしまいます。これではバックアップの意味がありません。
PlayAUDIO1Uでの同期再生はMIDI Time Code(MTC)は使用せずに、外部コントローラーサーフェイスを接続し、「再生・停止の信号を同時に両方のPCに送る」という方式で、2台のPCを同時に再生させるという仕組みになっています。
今回はこちらFaderportという機器を使用しましたが、「再生」と「停止」ボタンが付属していればどの機器でも問題ありません。
この機器をPlayAUDIO1Uのフロントにある「USB HOST」に接触して、「Auracle」で「A」「B」端子に接続された両方のPCに同じ信号が送れるように設定します。
次にDAWで接続したFaderportの設定を行なっていきます。この設定はDAWによって異なりますが、殆どのDAWでは環境設定の項目で設定することが可能です。PCに直接Faderportを接続しているわけではありませんので、インプットポートとアウトプットポートは「PlayAUDIO1U HST 1」を選択します。
これらの作業を両方のPCで同じように行います。
4. 「A」端子のUSB-Cに接続したメイン側のコンピューターにバックアップ切替用のテストトーン用のトラックを作成。
「PlayAUDIO 1U」はメイン側のコンピューターが万が一シャットダウンしてしまった場合、自動で「B」端子に接続されているコンピューターに自動的に切り替わります。
この機能を使うには、「PlayAUDIO 1U」がメイン側のコンピューターが停止したことを感知する為に、Sine波かSMPTE信号などを常にOutputの「15ch」に発信しておく必要があります。
※もし、どちらもお持ちでない場合はiConectivityのサポートページで「LifeSine」というプラグインをフリーダウンロード可能ですのでダウンロードしてインストールしてください。
https://www.iconnectivity.com/software/control-software
この信号の受信が途切れたタイミングで「B」端子に接続されたコンピューターへ音声の切替が行われます。
6. バックアップ機能が問題なく動作するかチェック。
ここまでの設定が完了したら、「A」端子側のコンピューターを再生して「B」端子側のコンピューターが追従をしたのを確認したら、「A」端子側のコンピューターを停止します。下記動画のように自動的に「B」端子側のコンピューターに切り替わったら問題ありません。
これからライブマニュピレートをやりたいが、機材にそこまで詳しくない、楽器を演奏しながらマニュピレートも行ないたい!という方は以下の点が問題なければオススメです!
1.映像との同期が必要でタイムコードの信号が必要。
→その場合はPlayAUDIO1Uはオーディオインターフェースのみとして使用し、別途Jam Sync対応のMIDIインターフェイスをご用意ください。ProToolsのみDAW内蔵の機能でJam Syncを持っていますので、それでも代用可能です。
2.基本歌物のライブがメインで、あまり長い曲を流すことはない。
→2台のPCをTime Code Syncをしていない為、長尺の曲はズレが生じる可能性があります。
また、「A」端子のPCに障害が起きてしまい「B」端子に切り替わった後、PlayAUDIO1Uは「A」端子を復旧させたとしても、両PC間をMIDI Time Code(MTC)で同期しているわけではないので、開演中に元に戻すことは難しいのでご注意ください。
とはいえ、1U1台のラックシステムで簡単なマニュピレートが出来てしまうのは非常に魅力的です。
省スペース用やセカンド機材として「PlayAUDIO 1U」を是非ご検討ください。